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箱じゃ箱じゃを踊っている。(※1)
ハコモノについて少し思うこと
どんな性格の施設かは、「勝手に岐阜県僻知識」をごらんいただくとして、実はあまりの立派さにちょっと驚いて帰ってきた。
ま、立派とは言っても、大きさでは都会にあるビル群(例えば、都庁や東京国際フォーラム)とは比べものにならない。比較する大きな建築物が何もないところに建っているため、実際よりも大きく見えるということはある。
驚いたのは、大きさよりもその内装である。木の国・飛騨らしく、木材がふんだんに使われている。決して華美ではないが、維持費がずいぶんかかるだろうなぁと思ったわけである。
財政課にいるせいか、最近はこういうところに目がいくようになった。
ハコモノ(※2)というととかく悪いイメージがあるが、県民のみなさまに愛されている施設もあるし、一概に悪いとばかり言えない。必要なものは必要なのだ。
ただ、どんな施設であっても維持費はかかる。料金収入のある施設もあるが、そもそも利用料金は維持費(人件費を含む)をペイできないように決められていることが多く、つまり施設の維持のためには大抵は税金が使われている。建設するときには、どの施設も当然維持費も念頭に置いて計画されているが、残念ながら、中には維持費の試算が甘い施設もあると言わざるを得ないのが現実である。
先日、故あって熊本県に行ってきた。たまたま目にした雑誌の記事に「くまもとアートポリス」なるものが載っていて少し私の興味を引いた。5年くらい前にも、何かの雑誌で、優良施設の記事を読んだことがあり、それがアートポリスの一環で建てられたものであったことを頭の隅に記憶していたからである。
くまもとアートポリスとは、簡単に言えば、明治、大正、昭和初期などに建設され、地域の人々に親しまれている建築物を保存し、今後建てられるものについては、後世にまで親しまれ、地域の誇りとなるような建築物を造ろうという取り組みである。
前者については賛成するし、後者についても立派なことだと思う。が、ここに私の財政課の頭がもたげるのである。この理念の下に建てられている建築物は維持費が高いのではないかという疑問である。
残念ながら、熊本ではそれらの建物を実際に見ることができず、その辺の検証はできなかったが、熊本に限らず、一般的にバブル期に建てられた公共建築物には、有名な建築家による斬新なデザイン(地域が誇れるデザイン?)のものが多い。これらは、ハコモノと言いつつ、大抵は箱の形をしていない。実はその分、余計なお金がかかる、と私は思っている。
例えば、アトリウムのある建物。これはバブル期に全国的に流行したらしいが、ガラス張りの天井と壁面が作り出す吹き抜けの空間を、例えば夏、快適に保つということは、温室に冷房を入れるに等しい。仮に「快適」を求めないとしても、複雑な構造の建物は、設計時には思いもしなかった欠点があったりもする。以前聞いたところでは、東京のとあるハコは開館後まもなく雨漏りが問題になったという。
このあたり、どう考えたらよいのでしょうか。
「後世に誇れる建物を!」というのは、効率ばかりを追求してつまらないただの四角いハコばかりがどんどん増えていくことを憂慮したからだと思うし、100年も前の建物であっても、今も現役で、シンボリックな存在として市民に認知されている建物のようなものを、これから造っていきたいという気持ちも理解できる。
問題があるとすれば、その理念ばかりが先行して、中身のないハコが、ある時期雨後の竹の子のようにポコポコ造られたことにあるだろう。と、思う。100年前の建物が今も市民に親しまれているのは、個性的な形をしているからだけではないのだ。それが生活のなかにしっかり位置づけられているからこそ、古くて逆に維持費がかかるような建物であっても市民は残していきたいと思うのではないかな。
ところで、じゃ、何でそんなに簡単に全国的にハコが造れたかと言えば、これは補助金と地方交付税制度に負うところが大きいと思う。資金調達が容易なのだ。
後年にまで利益をもたらす資産を造る場合には、自治体は地方債を起こすことができる。いわゆる県民会館もこれに相当するので、莫大な建設費を調達するため、自治体は県債を起こす。県債とは、一時的な資金不足を解消するための手段のみならず、後年利益を享受する人にも応分の負担をしてもらうための方法である。
わかりやすく言うなら、自分の子供世代にも借金の返済を頼る額のお金を借りて、家を建てるようなものである。が、自治体の場合は、さらに親(国)が援助してくれる。県債で調達した額の何割かを、後年、地方交付税のかたちで自治体(子)の口座に払い込んでくれるのである。
……こうして、全国津々浦々で、子どもたち(自治体)は多くの県民会館、市民会館をせっせと建てたのである。競って家を建てる子どもたち全員に援助するため、実は親(国)は借金をしてまでお金を調達しているのだ。そして、いつまでたっても、親は子どもの建築欲を諫めることができず、援助を続けている。
※1:箱じゃ箱じゃを踊っている。
『だから歩いていくんだよ。』のコーナータイトルは、歌やCMのコピーなどをもじったものが多い。コレの元ネタは、『吾輩は猫である』だ。「猫じゃ猫じゃを踊っている」という文句があって(文庫本には注まで付いていて)、妙に印象に残っている。どんな踊りかは知らない。
※2:ハコモノ
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