メイドに捧げるお話

滅んだ街。 新たに訪れる人々。 彼らは、希望という物にすがり、様々な地方を転々としてきた哀しい人々。 安住という物を知らず、 いつもどこかしらに不満を思い、また旅へ出る、そんな人々だった。 哀しい記憶など知らず、ただ豊かな土地に惹かれ、人は集まった。 豊かな大地は、人々に安すらぎを与え、彼らの心は満たされ・・ だが、たった一つ残された館に住まう貴族だけは、 いつもどこか苦い表情をしていた。 自分のみ知っている悲劇を、忘れたいと思いつつも・・ 第3章「寒い夏」 ・・・・・とても美しい空。 昨日までとは打って変わった、暖かいという程度の日差し。 これまでの夏とそう変わりない空。 ただいつもと全く違うのは、 目の前に広がるのが街ではなく、 戦争でも起こったのではと思うような廃墟。 綺麗に咲いていたはずの向日葵も、 楽しげに遊んでいた子供達も、 皆・・・全てがこの廃墟と同化してしまった。 「寒いな・・・何かが抜けたようだ。」 そう言って窓を見ていた主人は、 どこか力が抜け、今にも崩れ落ちそうだった。 「旦那様、色々とあってお疲れでしょう。 どうでしょう?今日はお休みになられては。」 余程ショックだったのだろう。 そうでなければ、 トラウマになっていたものが呼び起こされてしまったのかもしれない。 倍増した悲しみ、辛さ・・・ それがいかほどの物か・・・ 「そうだな・・・そうするとしよう・・」 そう言って、主人は自室に戻っていった。 私は主人の入ったドアに対し会釈をし、それから少しして家を出た。 ざっ・・・ざっ・・・ あれから何時間しただろうか。 私はずっと、何かに追われるように廃墟を片付けていた。 人の血や骨に触れるなど、正直死んでも嫌だったが、 主人がこれ以上、辛い思いを味わうのは忍びなかったし、 何より私自身、こんな光景を何時までも見ていたくは無かった。 ざっ・・・ざっ・・・ がら・・・ごろ・・・ 掃く度に妙な音がする。 最初は何だろうかと思ったが、今ではもう慣れた。 知りたいという好奇心が沸かなかったのは、幸いであった。 頭では何かというのは解っていた。 だが、それを直視してしまうと私はまた、あの光景を思い出してしまう・・ そう思い、目をずっと上に向けていた。 奇妙な表情かもしれない。 だが、どうせ誰もいないのだ。 気にすることも無い。 夕方になる頃。 大概の場所を片付け終わり、街はある程度綺麗になった。 誰だかも解らなくなった無残な欠片達は、 出来る限り深く、街の中心に埋めた。 暗くなっていく中、私は静かに祈りを捧げた。 誰に祈るでもなく、ただ心の中に住まう何かに対して。 思い込み、忘れ去る事がこの行為の報いあることを望んで・・・ (続く

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