ブレイク(3話)
「あの・・・お母さん・・・」
リスティがすまなそうな顔をして入ってきた。
「どうしたの?また、何か悪戯でもしちゃったの?」
女の子は、元気で笑っているのが一番。
だから、ちょっとした悪戯は、お小言はするけれど、許してあげた。
「えーと・・あたしもなんだけどさ・・」
そう言って、真雪さんもドアから首だけを出す。
やっぱり、すまなそう。
嫌な予感がした。
「・・・・という訳なんだ、だからさ・・」
「ごめんなさいっ!」
2人は、私のミニちゃんを壊してしまったという。
嘘だと信じたかった。
だから、私は駆け出し、庭に駐車しておいたミニちゃんを見ようと外に出た。
「・・・・・・・」
声も出なかった。
フロントのガラスは粉々だったし、ワイパーも完全に折れ曲がっていて・・
ボディも、かなりへこんでいた。
修理に、いくらかかるか・・
そんな事よりも、何でこんな事になったかが、どうしても解らなかった。
いや、事情は聞いた。
2人は、本当にわざとではなくて、こうなってしまったのだ。
だから、怒る気は無い・・・
けれど・・・
あんまりだった。
怒りよりも、悲しさ、それと、申し訳なさが入り混じった、そんな感情が今の愛にはあった。
涙が溢れ出て・・
そのまま、寮を飛び出して行ってしまった。
「愛―!!」
「お母さーん!!!」
「愛おねちゃーんっ!!」
大声で失踪した愛を探す3人。
1人は真雪。
1人はリスティ。
もう1人は、知佳だった。
2人を部屋に居た時点で止めなかった、自分の責任だ・・そう思い、愛を探すのを申し出たのだ。
もちろん、心配をかけまいと、他の住民には言っていない。
愛の夫である耕介も、今は実家の手伝いに戻ってしまい、居ない。
「愛おねーちゃーん!!」
「愛―!」
大声で、森の中を探し回る。
しかし、見つからない。
車は壊れているのだから、足になるものは無いだろうと、近場を探していた。
だが、それでも、そして、少しはなれた森の中を探しても、一向に見つからないのだ。
疲れて、立ち止まる一行。
「見つからないね・・」
額の汗を拭きながらリスティが呟く。
「あいつ・・・森の中で迷ってなきゃいいけど・・」
――長い付き合いの友人を、こんな事で失ってたまるか。
そんな意地が、真雪を駆り立てていた。
「あっ、お姉ちゃん、何処いくのっ!?」
1人歩いていく真雪。
「お前達は寮に戻ってな、こっからは、あたし1人で探す。」
そう言って、走りだす。
「あっ、お姉ちゃんっ!」
「くっ・・」
唖然とする知佳。
途端に、追いかけようとするリスティは、
羽を出し、体重を変え、一気にジャンプする。
既に体重は気体と同等の物になり、空を飛ぶのとそう大差無くなっていた。
上空から真雪の姿を確認し、ついていく。
姿勢制御に苦戦しつつも、なんとか真雪の元に降り立つ。
「戻ってろって言っただろが・・」
あきれたような顔で、帰るように促してきた。
でも、リスティは帰る気など無い。
「ちゃんと、お母さんに謝らないと、帰れないよ。」
そういって、真雪に付随して歩く。
勝手にしてろ・・そう言い、再び始める。
「愛−っ!!」
「お母さ〜ん!!」
2人の声が聞こえる。
あれから、どれ位時間が経ったんだろう。
ずっと、探してくれている。
でも、2人の前に出ることなんて、まだできなかった。
だって、2人の前に立ったら、私・・・
あの2人の事を、嫌いになってしまいそうだから・・
本当に大好きな真雪さんとリスティを、嫌いになりたくないから・・
だから、もう少しだけ・・
もう少しだけ、1人で泣いていたい・・
〜続く〜
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