ブレイク(4話)

「くそっ!森には、いないのか・・・」 「ボク達の事、嫌いになっちゃったのかな・・・」 泣きそうな表情でリスティが呟く。 真雪も、既に冷静さを失っていた。 「そうかもな・・なんせ、愛の唯一の家族だった爺さんの・・ 言うなれば、形見みたいなもんだしな・・」 怒って当然、嫌われて当たり前だ。 「うぅ・・・」 泣き出すリスティ。 「ほら、泣くんじゃねぇよ!このガキ。泣いてる間があったら、愛の奴探すぞ!」 わざと厳しく怒鳴りつける。 「でも・・でも・・」 「嫌われるとか、怒られるとか、そんな事は、あいつを見つけてからだ! 耕介ならそうする。」 それから、また探した。 リスティに言って、空から探させた。 真雪自身も、森中を一心不乱に走り回って、探した。 償い以前に、それ以前に、愛を失いたくなかった。 親友だ。 そう思っても良い。 さざなみ寮に来てからの、一番最初の理解者だ。 付き合いだって耕介以外の、誰よりも長い。 そんな友人をこんな事で無くしてしまうのだけは嫌だった。 それに、自分自身で見つけなければ、 愛だって、友人でいてくれなくなるかもしれない。 いくら寛容な愛でも、 どんなに優しくても、 ただの他人として遠ざかれてしまうかもしれない。 焦っていた。 だから、真雪は真剣に、探していた。 「ぴこっ」 犬が一匹。 目の前に座っていた。 もう、夜だ。 かなり遅い。 でも、2人の声は聞こえていた。 そして、今は、昨日治療してあげた毛玉犬が居る・・ 私は、どうしたらいいか、解らないまま、この犬さんに聞いてみる事にした。 話す相手が、欲しかった。 愚痴るように、ちょっと、あまり人に聞かれたら悪い事かなぁ・・と思うような事も話した。 車の事も・・ 2人をどうしたらいいかも・・・ 「ぴこぴこっ」 話し終えると、毛玉犬は、走り出してしまった。 私は、つい、追いかけてしまった。 だって、今の私の、唯一の話し相手だったから・・ 「お母さん・・」 声も枯れかけ、ぐったりとしているリスティ。 真雪も、とうとう力尽きたのか、木に寄りかかっている。 「なぁ、ぼーず」 「ボクは、ぼーずなんかじゃない・・」 疲れながらも、やっぱりムッとして答える。 「そうやって答えるあたりがぼーずだっての」 更にからかう。 「こ、こんな時になんでそんな事言えるんだよっ!」 憤慨して、真雪の方を睨むリスティ。 「・・・・っ!?」 ・・・泣いていた。 リスティをからかったのは、平静を保つためだった。 でも、もう駄目だった。 「・・・仲良かったのにな・・・・・」 涙を拭かずにそのまま、森から空を仰ぎ見る。 「ちょっとした冗談なら、笑って許してくれたのによ・・ やっぱり、度を越すと、駄目なんだよな・・」 悲しげに空を見、苦笑する。 ・・・が。 「なぁ愛・・お前なら、もしあたしの立場に立ったら、どうするよ?」 大声で叫ぶ。 「・・・・・」 リスティは、そのまま、黙って見ていた。 「そうですね・・・」 少しして、真雪の木の、反対側から声が聞こえてきた。 「私なら、謝って、それでも駄目なら、その人の為に、一生を捧げますね。」 「お母さんっ」 「ぴこっ」 毛玉犬と一緒に、愛が登場した。 「・・・無茶言うぜ・・・このあたしに、一生尽くせって言うのか?」 涙を拭きながら、皮肉を叩く。 「うーん・・・それが駄目なら・・・」 唇に指を当て、少し考える愛。 「一生、私の友達で居てください。」 そうやって微笑む愛は、少し悪戯っぽい表情だった。 「へーへー・・それなら・・もちろん・・さっ・・」 そう言って、愛に抱きつく真雪。 「それで・・あのぼーずはどうするよ? あいつにも、一生友達で居てー・・・か?」 もういつものにやり顔の真雪。 愛は、ちょっと厳しい顔つきになって、 「リスティは・・罰として、耕介さんが居ない間、寮内のお掃除を全部する事っ」 そう言って、また微笑んだ。 「は・・・・はいっ!」 それから・・・・ それから・・・・ この3人は・・・ いや、さざなみ寮そのものが・・・ 元とそう大差ない、平和な暮らしに戻った・・・ ただ、リスティは前にも増して、 愛の事を母親として見るようになったし・・・ 真雪は、愛の事をこれまで以上に大切に思った・・・ そう、絆は強くなった・・・ さざなみ寮の平穏な日々は、また、少し遠くまで・・・ それとも、悠久の時までか・・・ 続く・・・ 〜終〜

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