主人の居る館(第4章)
人気のあるにも関わらず、近辺からは人が来ることの無い館。
そこにある日、一人の少女が、この館の主人によって連れてこられた。
少女の名は姫里。
誰がどう見ても普通の、少女。
だが、彼女は、
門を通り、扉を開き、
扉を過ぎた時から、
この館のメイドなのだった。
――――――――――――――――――――
「まぁた書いてるんですかぁ?」
―――・・・もう驚くまい。
「あれほど人の部屋に勝手に入ってくるなと・・」
説教じみた口調で、というか、説教をしようとしたのだが、
既にこのメイドの興味範囲内には俺は入っていないようだ。
「何気に、4話目なんですねぇ・・どれどれ・・」
「見るなっ!」
もういつもの問答になってる気がする。
「見てませんよ、読んでるんです。」
いつも通りに屁理屈を並べながら勝手に人の書いた物を見る。
「あー、この「姫里」って、私の事じゃないですかぁっ!?」
―――あ・・ばれた・・
「勝手に人の名前使って・・全く、もう・・」
途端に頬をぷくーっとして・・
―――わ、笑える・・
「笑わないでくださいっ!」
なにやら相当怒っているようだ。
「す、すまんな・・ぷぷ・・いや、何、悪いようには書かないよ。
うん、多分な・・・」
「多分ってなんですか!?」
―――他に形容しようが無いから多分と言ったのだが。
「もぅ・・もしこれでできたのが変にえっちぃのとか、
すごい悲劇とかだったら怒りますよっ!」
―――これ以上、怒ることがあるのだろうか。
ますますふくれた顔を想像してしまい、
口を抑えても無駄なくらいに口が開いてしまった。
「ははははははは・・」
「わ、笑いすぎですよっ!」
ますますぷく〜っと膨らませる。
見ていて面白い。
「あ〜はっはっはっ・・」
「うぅ・・なんで笑うのかな・・・」
怒るのをひとまずやめて、考え込む姫里。
どうやら、自分の顔が面白い事になっていたのには気づいていないらしい。
「あの〜・・」
爆笑する俺と考え込む姫里の元に、空がおどおどしつつもやってきた。
「楽しそうにしている所、申し訳ないんですけど・・お客様が・・」
そう言って、玄関の方を見やる。
どうやら、今の俺と姫里の状態は、
傍から見ると「楽しそうにお喋りしている」ように見えたらしい。
―――いや、確かに楽しい、というか、面白いんだけどな。
「ん〜・・客ね・・」
幾らなんでも、
こんな森の奥深くに新聞の勧誘は無いだろうしなぁ・・
等と考えながら、玄関へ向かう。
例の旅芸人以来、数週間ぶりの客だ。
・・・普通の客ならいいのだが。
「・・・・・・・」
ぽけ〜・・・っと、玄関に突っ立っている少女。
中々、可愛い子ではないか。
それと・・
「・・・・・・(殺)」
隣の、いかにも殺気ムンムンな少年。
てめぇはうせろっ(何
ってな感じだ。
「あんたがここの主人か?」
ガキの癖に生意気な口調で聞いてきた。
「一応な。」
少しムッときたが、俺は大人なので、普通な態度で返答。
「なら話が早い、こいつを買い取ってくれ。」
そう言って、隣の少女を親指で差した。
「・・・・なぬっ!?」
いきなりの訳の解らない事態に、
俺と、傍に立っていた姫里・空は唖然としてしまった。
―――このガキ、冗談のレベルが地球滅亡説並に強力だぞ・・
「冗談で言ってる訳じゃない。
あんたが金で身寄りの無いガキを買い取って、
色々と働かせて暮らしてるってのも聞いてる。」
―――かなり誤解されてます。ヤヴァイです。
「お金で買い取るって、なんか嫌ですね。
それに、私や空は身寄りが無い訳じゃないですよ!」
ちょっと怒った風に、姫里が言う。
「おっと、それは悪かったな。だが、事実だろ?」
「・・・お前が何を勘違いしてるかは知らんが、
俺は人身売買してる訳でも、
女の子だらけのハーレム作ってうっはうは♪な生活送ってる訳でも無いぞ。」
「送りたくはあるみたいですけどね。」
―――黙れガキ。
「とにかく、そういう訳だ。
その子がどういう子かは知らんが、
悪事の加担をするつもりは無い。」
―――を、なんか今の俺、かっこいいっぽいな♪
「・・・・頼んでも、駄目か?」
「そんな可愛い女の子を『売る』なんて言い方した時点で論外だな。
もっと言葉を選べ。」
俺は、「救済」はしても「人身売買」には手は貸さない。
「・・・くそっ・・ここも駄目か・・」
そう言って飛び出していった。
少女も、それについていく。
「・・・なんだったんだ。」
「さぁ・・?」
俺たちは唖然として見送るだけだ。
森。
相当深い森。
下手をしなくとも夜になれば猛獣、
それだけではなく、運が悪ければ「魔物(※)」と言われる恐怖の存在が現れる。
そんな場所に、彼らは居た。
「くそ・・なんだって、どこもかしこも・・」
「・・・・・・」
大丈夫?
優しい瞳で少年の方を見る少女。
見るだけで、言葉は発しない。
「あ?ああ、俺は大丈夫だけどよ・・」
口が悪いのは、少年の生来の物だった。
生まれは決して裕福ではなく、
勉強とは縁遠い家に生まれた為、言葉づかいは更正される事は無かった。
「それよりも、暗くなってきたな・・・
さっさと寝るのに良い場所を見つけねーとな・・」
そう言って歩き出す。
「・・・・・・・」
こくん。
と頷き、とことこと後ろに付いて行く少女。
そのすぐ近くで、獣が貪り食われる悲鳴が聞こえた。
その断末魔は、獣そのものの声が鳥に近いが為、
狩られていた事を周囲に知らせることは無かった。
当然、先の2人にも・・
〜続く〜
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