主人の居る館(第2章)
誰も居ないはずの館・・・
街の人々は、その館をそう思っていた。
誰もが確認したわけでもなく。
だが、それでいて祟りだの、呪いだのという事が先行し、
人々はますます遠のく・・
ただでさえ、人里から離ているというのに、
ただでさえ、鬱蒼とした森の中にあるというのに、
誰すらも、近づこうとはしなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「相変わらずシリアス書いてるんですね〜」
「ぬぁっ・・またお前か・・」
突然の事に驚くが、声の主がメイドであると言う事がわかり、一息つく。
「私以外の人だったら恐怖ですよ〜」
―――うーむ、それはそうなんだが・・
「そういや、お前って、妹いたっけな?」
突然思いついた事を聞く。
「え?ええ、居ますよ。後、兄も。」
ちょっと嬉しそうだ。
尤も、こいつが嬉しそうだからといって、
どうにもなる物ではないから構わんのだが。
「いっその事、妹の方もメイドとしてここに住まわせるとか・・」
「相変わらず無駄に煩悩が働いてますね〜」
―――褒め言葉として取っておこう。
「でも、可愛い妹をあなたなんかに仕えさせるのは可哀想なので不可です。」
―――うわっ、本音だよ・・
「大体、妹=メイドっていう考え方からしてマニアックで危ないです。」
「誰がんな考えするかぁっ!」
―――俺は、(一応は)ノーマルだぞっ!
「やだなぁ〜、あなた以外にそんな人居る訳無いじゃないですかぁ(はぁと)」
なんか括弧の中が強化されてる気がしたが、とりあえず全力で否定を・・
ぴんぽーん♪
「は〜い♪」
―――ちっ、今日こそは奴の戯言を徹底的に否定してやろうかと思っていたのに・・
「あっ・・・」
「お久しぶりです、姉さん。」
―――な、なんですとぉっ!
「久しぶり〜っ、さっき、斎田さんと噂してたのよ、すっごい偶然。」
―――いや、俺もそう思うよ。
「それで・・あの・・」
「さ、立ち話もなんだから上がっちゃいなさいよ♪」
「あ・・いえ・・でも・・・」
遠慮気味な妹と、無理にでも部屋に上がらせようとする姉。
「ほら、遠慮せずに、自分の家だと思っていいから♪」
―――あの、一応、俺の家なんですけど・・・
そんな訳で、妹が俺の部屋にやってきた。
「ほら〜、ちょっとどいてください。妹が座るんですからっ」
―――こいつ・・自分がメイドだって事完全に忘れてやがるな(汗)
「ん・・・とりあえず、いらっしゃい。」
「あ・・はい・・」
妹の方とは初対面だったので、恐らく緊張しているのだろう。
おどおどしている。
「えっと・・・ここの主人の方はどちらへ・・」
―――俺、そんなに主人っぽくないですか・・?
「あはは、空、この人が主人の斎田さんよ〜」
「へっ?あっ・・・す、すみませんっ、失礼をっ!」
相当焦ったようにぺこぺこ謝る。
―――まぁ、確かにメイドに椅子から下ろされる主人なんて聞いた事ねぇだろうしな・・・
「ははは、気にしないで良いよ、怒ってる訳ぢゃねーし。」
「斎田さん、私に比べて随分と扱いが違いません?」
―――おめーもな。
「さてと、それで、ご用件は何かな?」
一応名指し(?)できたのだから、何かしら用があるのだろう。
少なくとも、挨拶とか、顔見とか・・・
「あ・・あの・・」
やっぱりおどおどとしている。
ひょっとしたら、元の性格からきているのかもしれない。
「姉さんに酷い事するの、やめて下さいっ!」
―――・・・へ?
「姉さんからの手紙で知ってるんです。
毎日毎晩、姉さんを部屋に呼んで主人だからと、
あんな事や色々と口では言えない様な酷い事をしてるって・・」
「ちょ・・ちょっとまってくれ、何かの間違いぢゃ・・・」
―――確かに、メイドは漢のロマンだと思ったりはしているが、
実際にメイドにんな事命令するような程悪でも鬼畜でもないぞ。
「いいえ、姉さんが私に嘘つくなんて事、ある訳ありませんっ!」
―――うわっ、やばい、この娘本気だよ・・(汗)
「ですので・・お願いです。姉さんの代わりは私がしますから・・」
―――それはそれで結構いいかも・・って、何考えてるんだ俺っ!
「あー、『それはそれで結構いいかも』って顔してる〜」
―――お前は変なところで突っ込まずに誤解とけっ!
「いや、だからさ、俺はそんな事こいつにしてねーんだってば。」
「でもっ、姉さんがっ・・」
―――誰か、この思い込み激しい妹なんとかしてくれ(泣)
「あー、もしかして、あの手紙の事?」
「・・そうです。」
―――アノテガミッテナンデスカ?
「あのね、あの手紙の内容は、
空にメイドの辛さ・大変さっていうのを知って欲しくて書いたものなの。」
―――だから、あの手紙ってなんだよっ!
「はぅ・・では、やっぱり姉さん、酷い目に・・」
「ううん、違うの、空にはメイドなんてなって欲しくなかったの。
だからついた・・・嘘なの。」
「嘘・・?姉さんが・・私に・・?」
なにやらショックを受けている様子だが、大丈夫なのだろうか。
「でもよ、『メイドなんて』はねぇと思うぞ。お前だってメイドな訳だし。」
「だって、この娘、『メイドになりたい』なんて言うんですよ?
この仕事の大変なの知らないで・・」
―――こいつと一緒に居る俺のほうが大変な目に合っているのは気のせいだろうか?
「だ、だって、そうすれば、家計だって助かるし・・」
「空以外の誰の家計が助かるのよ・・」
はぁ・・と溜息をつく。
兄は就職、姉は住み込みでメイド、養われる妹が家計を助けるというのだ。
しかもメイドで。
「ヴ・・・」
どうやら、何も考えていなかったらしい。
「ほら、解ったら諦めて・・ね?」
「そういや、なんでメイドが駄目なんだ?」
ふと思いついた疑問を素直に口に出す。
こいつと暮らしている所為で、俺もかなり後先を考えなくなったらしい。
「だって・・メイドですよ?
下手したら性質の悪い主人に命令されて、
えちぃさせられるかも知れないじゃないですか?」
「だったら、俺んとこで住み込みでやらせるとか・・」
それならきっと妹の方もえちぃ目とやらに合わないから安心だ。
「・・・ますますもって駄目です。」
「なんでだよ?」
ジト目で俺を見る。
「空は見ての通り、可愛いですから。
でも、気弱だから斎田さんに無理にえちぃ事命令されたりしたら、
断れないと思うんです。だから。」
―――俺って、そんなに信用無いですか?(泣)
「誰がんな事命令するかっ!」
「あなたです。」
―――えぅ〜(大泣)
「あ・・あの・・」
申し訳無さそうに弱々しく口をはさむ妹。
「あの・・私、その・・少しくらいなら・・(ぽっ)」
―――マジっすか?・・・って、違う違うっ!(否)
「だから・・俺はんな事しねーって・・」
「だまされちゃだめよ、空。
斎田さん、表面は悪党だけど、裏面も悪党だし。」
―――俺、メイドにここまで言われるような事、何かしましたか?
「うー・・・もういい、妹・・空とか言ったね、君、今日から採用な。
ちゃんと働いてくれ。」
「え・・ちょ、ちょっと〜」
―――こうなりゃ自棄だ。姉妹揃って永久就職(※)させたる。
「ほ、本当ですかっ!?」
目をキラキラと輝かせる妹・・・ぢゃなくて空。
ちょっと意外な反応だ。
「嘘言ってどうする。
つー事で、姫里、色々と仕事の仕方とか教えとくんだぞ。」
「はぁ・・解りました・・」
溜息を吐きつつもとりあえず了承する姫里。
この日から、俺と姫里、空の奇妙ながらも平和(?)な生活が始まった。
〜続く〜
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