主人の居る館(第3章)

美しき少女達の声・・・ 誰もが恐れるその館に、彼女達の楽しげな笑い声は響き渡る。 館の中から? いや、館の外からも。 心弱き人々は、 ただ恐れるばかりの彼らは、 ますます館から遠ざかっていった・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あ・・あの・・・」 「まぁた覗くかっ!」 もう既に慣れっこである。 今日という今日こそは・・と思ったのだが、 「ひゃっ、ごめんなさい・・・」 申し訳無さそうに縮こまっている空がいた。 どうやら、人違いだったらしい。 「あ・・いや、悪かったな、てっきり姫里の奴だとばかり・・」 「い、いえ、そんな・・・」 ―――空を泣かせたりしたら、 姫里の奴に何言われるか解ったもんぢゃないしな・・・ 「んー・・それで、何か用か?」 「えぇっと・・姉さんが買出しに出るみたいなので、何か必要な物は無いかと・・」 散々妹をメイドにさせるのを渋ったくせに、 メイドになった後は結構こき使っているようである。 相変わらず解らないメイドだ。 「えろぼん買ってきてくれ。」 もちろん冗談だけど。 「あ、はいっ、解りました・・」 たったったっ・・と、部屋を出て行く空。 ―――って、ちょっとまてぃ! 「あー・・冗談なんだがなぁ・・・(汗)」 ――――――――それから少しして――――――――――― 「ゴルァっ!!」 「ぬぁっっっ!?(滝汗)」 突然の事に、迂闊にも驚いてしまった。 何がなれている・・なのだろうか。前言撤回だ。 「斎田さんっ!見損ないましたよっ!」 ―――突然何言い出すんだこいつ・・ 「私の大事なとっても可愛い最高の妹「空」になんて物頼んでくれたんですかっ!!!」 「知るか。」 ―――何のことだかさっぱりだぞ。 つか、シスコンに輪をかけてるって事はよぉく解ったけど。 「なんでも、純粋で無垢で穢れの無い空に 『えろぼん買ってこいやゴルァっ!』 なんて言って脅したそうぢゃないですかつ!」 「誰が脅すかっ!」 ―――今思い出したが、それにしたって、 どこをどうとったらアレを本気で、なおかつここまで曲折して取れるんだ・・ 「・・とにかく、見損ないました。」 「冗談で言ったのにそれを言う前に空が行っちまったのが悪いんだろが。」 「いーえ!斎田さんのが悪いですっ! 空が悪いなんて事、太陽が爆発しても有り得ないです!」 ―――太陽は常に爆発してるぢゃんか・・ ぴんぽーん・・・ 普段滅多に来やしないのに、こんな時に限って客が来る。 「大体ですねぇ、斎田さんの空を見る眼はいっつも・・」 相変わらず酷い事を遠慮なく言うメイドである。 だが、今はそれに構っているバヤイではない。 「・・・客が来たんだから対応しろよ。」 「へっ?」 ―――こいつ、ほんとにメイドか・・? 時々そう思う。 「ほら、客が外で震えてるぞ。」 ―――・・・夏だけど。 「あっ、はーいっ・・」 たったったっ・・・ ―――ふー、やれやれ。 「あ・・あのぅ・・・」 「・・・・ん?」 見ると空が申し訳無さそうに立っていた。 「す、すみません、私が早とちりしたばっかりに・・」 全く、あの姉でなんでこういう妹なのだろうか。 まぁ、両方ともああいう感じよりはマシだが。 「気にすんな、それよりも、姫里の奴後でなんとかしといてくれ。 誤解されたままってのは辛いしな・・」 「はいっ、わかりましたっ」 許してもらえて嬉しいのか、 それとも、何か別の思惑でもあるのか、 にっこりと笑顔になった。 「きゃぁぁぁぁぁっ!!」 「こ、こらっ!騒ぐなっ!(汗)」 ・・・何やら、玄関先で騒がしい声が聞こえた。 「あ、あの・・今の悲鳴、姉さんの声に似てたんですけど・・」 「気の所為だ。」 もちろん、今の悲鳴は姫里の物だろうが・・ 強盗(と思われる)奴の方が馬鹿見たく焦っているのが眼に見えたため、 放って置く事にした。 「で、でも・・」 空が今にも飛び出して行きそうな表情をしているので、仕方なく俺が制する。 「はー・・ぢゃあ、俺が見てくるからお前はここで待ってろ。」 「あ、は、はいっ。」 言うと大人しい物である。 ―――姫里の奴もこれ位物分りが良ければなぁ・・ 「きゃーきゃー、ご主人様助けて〜(はーと)」 ・・・五月蝿い奴だ。 しかも、いかにも棒読みくさいのは気の所為ぢゃないだろう。きっと。 「だ、だからなぁっ、黙らないと人が死ぬことになるんだぞっ! だから黙れっ!」 ―――あーあー、馬鹿丸出しだなぁ・・ 某侍魂に書かれてた馬鹿ヒットマンといい勝負かもしれない。 「おいコラ、人ん家で何やってんだ。」 「あ〜、ご主人様〜」 ゲームか何かに出てくる囚われのメイドにでもなったつもりなのだろうか。やけに芝居じみている。 ―――なんか知らんがこういう時だけ「ご主人様」なのはなんとかならんのか。どうせなら普段からげふんげふんっ(謎) 「お、お前がこの屋敷の主人かっ!?」 「違うぞ。」 なんとなくボケてみた。 「ボケないで下さいっ!」 そして突っ込まれた。 「ば、馬鹿にしやがって。 いいか、このメイドの命が惜しかったら、飯だ、食い物を持って来い!」 「無理。」 ―――だって、この家で飯作れるの、姫里だけだし。 「ぢゃ、ぢゃあ、このメイドがどうなっても良いんだなっ!?」 「・・・・人質を取った時点で、お前はアホだよ。」 「・・へ?」 ―――逃げられない状態で人質取ったら、 どうあがいても自分は助からないやんか。 「〜しないと人質を殺すぞ」とか言っても「殺したらお前も死ぬだけだ」と言われれば無駄なのだ。 「生憎と、この館は国から治外法権認められててね・・要はアレだ、人殺したって捕まんないんだよ。俺。」 ―――もちろんハッタリだけど。 ガチャッ 何処からか出したショットガンを構える。 「殺したきゃ殺せ、そいつ、馬鹿な上にあんまし忠誠心無いみたいだから、 丁度良いかもな(ニヤソ)」 「ちょっ、さ、斎田さんっ、冗談・・ですよね・・?」 流石に姫里も状況がやばい方へと向いていると理解したのか、 俺を説得しようとする。しかし、無駄だ。 「俺はいつだって本気さ〜」 「そっ、そんなっ・・・お願いですっ、助けて下さいよ〜」 「そ、そうだぞっ、こんな可愛いメイド、 なんで見す見す殺すような真似をっ・・俺に飯食わせるだけですぐに・・」 ―――だから、その飯作れる奴がいねーんだってばよ。 「ほら。殺すんだろ?そいつ。 どうせ死ぬなら、一人くらい道連れにしたほうがいいよ・・・なぁ?」 今までに人様に見せた事が無い位非常かつ不気味な笑顔を見せる。 「あ・・いえ・・その・・・」 今まで張っていた虚勢すら失せたのか、なんとか弁明しようとする強盗。 「それとも、今すぐその馬鹿を放して、俺に土下座するか?ん?」 ―――あー、気分良い( ´∇`) 「う・・わ、解った・・」 そう言いながら姫里を放す。 そして、土下座。 「すみませんでしたっ」 「はー・・しょうがないなぁ・・・」 ここまで俺が言うと安心したのか、ほっとしたような顔を上げた。 「・・・なぁんて、俺が許すわけないぢゃん(笑顔)」 「え・・?」 ばぁんっっっっ 「ぎゃぁぁぁっ・・・」 ―――勿論空砲な。 「斎田さんっ、あ、あなた、なんて事を・・」 顔を叩かれる。 全く、暴力反対だ。 「あん?こいつを反省させてやってただけだぞ?」 弾薬は入っていない。 「あ・・・」 唖然とする姫里。 「おい、この野郎になんか食わせてやれ。」 俺はあくまでも(自称)良い人なんだ。 だから、過ちを悔やませたら与えてやる。 「は・・はいっ」 はっ・・とした姫里がキッチンへと駆けて行った。 とりあえず、俺はこの馬鹿を客室に入れてやった。 本当ならこういう輩には、「地下牢」というお似合いな場所が在るのだが、 とりあえずそこまで連れてくのがめんどいので客室に通してやったのだ。 「う・・美味い・・」 飯を食いながら、涙を流す強盗。 聞けば、各地を転々と旅していたのだが、とうとう路銀が尽き、 挙句に生業としていた人形使いの能力も失ってしまい、それで仕方なく・・ という事なのだった。 聞いていた空は泣き、姫里は御代わりを取りにまたキッチンに行った。 勿論、そんな程度の話で同情してやれるほど俺は良い奴ぢゃないので放って置いたのだが。 「えぐえぐ・・・大変だったん・・ですねぇ・・」 元々金持ちの土地持ちの倅だった俺に、 そんな話は実感も何もわかなかったし、どうでも良い話だった ただ、ここまでさせる程腹が減っていた奴をそのままサツに突き刺出すのはアレなので、 とりあえず、人として最低限のモラルくらいは見せてやった。 「あ・・あの、斎田さん・・」 「あん?なんだ?」 泣きながら空が聞いてきた。 「この人・・何も無かった事にして、帰して上げられませんか?」 「・・・・・」 迷う。 いや、別に、こんな奴この場で銃殺刑にしてやってもいいのだが、 普段から良い子で言う事を良く聞く空の願いならば、聞いてやるのも悪い気はしない。 「しゃーない、空がそこまで言うのならば、今回の事は不問にしといてやるか・・」 「ほ、ホントですかっ!?」 ―――俺は良い娘の味方さ〜ヽ(´―`)ノ 「ほ、本当かっ?」 「・・・そういう事だ。解ったらとっとと失せろ。」 少々悪人っぽく言って放つ。 「すまねぇっ・・」 そう言って、深々と頭を下げる。 どうやら、少しは礼儀と言う物を知ってはいるらしい。 「・・・本当に、すみませんでした。」 「そう思うなら、もう二度とんな真似はするな。」 「言いすぎですよ・・」と姫里にたしなめられる。 毒舌の姫里にそこまで言われるのは物凄く心外だが、気にしないことにする。 「あの・・これ、どうぞ。」 空が紙に包まれた物を渡す。 腹の足しになるような物でも入ってるのだろう。 「・・すまんな・・世話になった。」 「世の中、頼ろうと思えばそこら辺の馬の骨でも頼れん事ぁ無いんだ、それを知れ。」 他人に同情する気など更々無いが、他人様に迷惑をかける輩は許せない。だから釘をさす。 「あぁ・・・二度としない。」 「解ればよし。ぢゃあ、とっとと行け。」 最後に「じゃあな」と言って(元)強盗は去っていった。 「ふー・・・無駄に疲れたぜぃ・・」 「斎田さん、酷いですよぉ〜」 姫里が頬を膨らませて怒る。 「あん?何が?」 とぼける。 「そんなの決まってるじゃないですかっ!」 どうやら決まっていたらしい。 「私もろとも強盗さん殺そうとして・・・酷いです。」 どうやら、流石にアレはビビったらしい。 「あれは空砲だっての。」 「そんなのは結果論です。」 ―――結果を知っていたからわざとああやって見せたんだがなぁ・・ 「大体、あれでもし私が強盗さんに殺されちゃってたら、どうするつもりだったんですか!?」 「知るか。」 ―――考えても無かったし。 「ひっどぉい・・大体ですねぇ、斎田さんは私の事ちっとも大切に扱ってくれないぢゃないですかぁっ!」 ―――訳若芽だな。 「それはこちらの台詞だ。もちっとメイドらしく主人の俺をまともに扱え。」 ―――いい機会だ。これを機に、しっかりと扱いを直してもらおうぢゃないか。 「私はいつだって普通に扱ってるじゃないですかぁっ!」 ―――どこがだよオィ・・ 「あれが普通なのかっ!?」 「当たり前駄のクラッカーです!」 真面目に言ってるのだから笑える。 「あ、あの・・二人とも、やめた方が・・」 空が止めに入る。 「いいえ、今日という今日こそははっきりとさせましょう!」 「望むところだっ!」 「あうあう・・(涙)」 古よりの館の掟(※)に則って、どちらが正しいかはナイフ投げで決める事となっている。今までも諍いが起こるとそうやってきた。 「ぢゃあ、まずは俺からだな。」 「どうぞ。」 的にはそれぞれ点が書かれている。 要はダーツの矢がナイフに変わった程度だ。 ・ ・・尤も、ナイフ自体は殺傷能力が相当高い物なのだが。 投げられる回数は・・・一回のみ。 「・・・・」 精神を統一して、投げる。 トスッ 歯切れのいい音が響く。 「75点・・ですね・・」 ―――中途半端な点だ。 最初に点を決めた奴は何を考えていたのだろうか。 「ふふん、そんな点数では私には勝てませんよ〜」 因みに、今までで10戦2勝8敗に終わっている。 ・・・俺が。 「それじゃあ、投げますよ〜」 ガッ 明らかに俺のときよりも速い速度でナイフが突き刺さる。 「えっ・・・と・・・」 空が点を見る。 「90点・・です。」 「ふ・ふ・ふ・・・私の勝ちですねぇ〜」 ・・・11戦2勝9敗になった。 当然、俺の負けだ。 「くっ・・・」 かなり悔しい。 「さぁて、それでは私に対する扱いを改善してもらいましょうか。」 「例えばなんだよ?」 改善しろと言われても、どの辺りをどのように直せと言っているのかが解らない。 「ですからぁ、もうちょっと・・その・・」 「はっきりと言えぃ。」 もじもじとする。はっきり言って似合ってない。 「優しくしてくださいよぅ・・・空みたく。全然扱い違うでしょ?」 「俺はいつだって優しいぞ。」 さっきだって、主人に手を上げるなど許されるはずの無い行為だというのに、それを許したし。 「それに、空はお前と違って真面目ぢゃん。」 「私だって真面目ですよ〜」 ―――何処がだ・・? 「それに、私がボイコットしたら斎田さん、 ご飯食べられないんですよ〜?いいんですか〜?」 「脅すなっ!」 ―――マジで焦るやん。 「そう思うんだったら、もうちょっと優しくしてください。以上です。」 「だから、どうやって・・」 人に優しくするなんて真似は、意識してはムズイのだ。 このガキゃ、それを知らないのだろうか。 「ですから、思いやりをこめてくださいよぅ、言葉に。」 つくづく難しい注文をしてくれる奴だ。 「斎田さん、自分で優しいって言いましたけど、 言葉の一つ一つに思いやりっていうのが無いです。」 「そういう奴だからな、俺は。」 そんな事は自覚している。だから「嫌な奴」なのだ。 「なら尚更です。私が勝ったんですから、 ちゃんとこれからは思いやりをこめて話してくださいね(はぁと)」 「あー、はいはい。」 「空返事じゃ駄目です。」 こういう時だけこいつは厳しい。 「解ったよ。出来る限りはな。」 「それでいいです。じゃあ、今から有効ですからね(はぁと)」 「あの・・・」と、空が割り込んでくる。 「ん?どした?」 「・・姉さん、買出し、行かないんですか・・・?」 かぁー、かぁー・・・・ ―――もう夕方かぁ・・ 「って、まだお前行ってなかったのかよっ!?」 「だ、だって、斎田さんが変な物空に頼むから・・つい・・」 申し訳無さそうに人の所為にする。 神経図太いのか謝ってるのかどっちかにして欲しい物だ。 「とにかく、買出しは明日だ。 今から行ったらとんでもない時間になっちまう。」 この館から街まで片道3時間だ。 家にゃ車なんて文明の利器は無いのでやはりチャリで行く事になるのだが。 とてもぢゃないがこの時間帯では危ない。 「うぅ・・でも、ご飯、大したのできませんよぅ・・?」 「何が残ってるんです?」 「お米とイチゴジャムとマーボー豆腐の素だけ・・」 最悪だ。 「・・・確かに、ろくなもんが残っちゃいねぇな・・・」 「・・・どうします?」 どうするもこうするも無い。もう日が暮れている。 「・・・(豆腐無しの)マーボー豆腐と飯だ。ジャムは捨て置け。」 「はぁい、解りました〜」 ・・・こうして俺らの夕食はご飯とマーボー豆腐(具無し)となった。 ああ虚しい。

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