主人の居る館(第1章)

誰も居ない館。
誰も居ない「はず」の館。
何処からか聞こえてくる少女の歌声。
人々は「祟りが出る」だの「幽霊だ」だの言って近寄ろうとせずにいた。
その所為で周囲の木々は生えっぱなしとなり、
鬱蒼な森がますますと深まっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なぁに書いてるんですかぁ?」
「ぬぉっ・・」
こ、このガキゃぁ、驚かせよって・・・
「あ、『このガキゃ、驚かせよって・・・』って顔してますねぇ。
私はガキなんかじゃないですよぉ」
ふっ、甘いな、「ぁ」が抜けてるぞ。
「なに『ニヤソ』って感じの笑み浮かべてるんですか・・怖いですよ」
「・・・主人に対してその口調は無ぇんじゃねーか?」
「そんなの、半世紀位前のお話です。
今の時代で『ご主人様ぁ(はーと)』なんて事言ってるメイド、
居るわけ無いじゃないですかぁ」
全く、つくづく漢の夢を壊すメイドだ。
「それで、一体何を書いてるんですか?えっちぃ事とか?」
にやにやと笑顔で聞いてくる。
「・・・小説だよ。ただの趣味のな」
「へぇ・・・あなたみたいな人でも小説って書けるものなんですねぇ・・」
物凄い失礼な風に感心しているのだが、この際無視して置く。
「ちょっと、見せて下さいよ(はーと)」
(はーと)ってなんだ・・
見せたら見せたでどーせ
「シリアスなんて変ですよぅ」
とか
「ロマンチストなんですねぇ・・ぷぷぷ・・」
とか失笑を買うのがオチだ。
「誰がお前なんぞに・・」
「へぇ〜、シリアスなんて書いてるんですかぁ・・ふーん・・」
勝手に見てるんじゃねーよっ!
「・・・私にはこういう堅っ苦しいの合わないみたいですね。うん」
「人の勝手に見といてそれかい」
「事実ですし」
「お前・・小学校の成績表に『大変素直でよろしいでしょう』とか書かれてた口だろう?」
絶対にそうだ。
こいつ、思ったことそのまま考えずに口に出してやがる。
「えー?成績表なんて今時言いませんよ〜、古いですね〜」
古くちゃだめですか?
「じゃ・・じゃあ、なんて言えばいいんだよっ?」
「あはは、いじけてる、いじけてる」
うっせぇぞガキっ!
「今は、『通知表』って言うんですよ〜」
(俺はまた一つ賢くなった)
まるでなんかのゲームだ。
「ついでに言うと、私はそんなの書かれた事無いです」
「マジか?」
相当意外な事実だ。
こいつの性格からして、絶対にそうじゃないかと踏んでいたのに・・
「ええ、本当ですよ、私、学校ではネコ被ってましたから」
「着ぐるみなんて被ってたのか、変わった奴だな」
「ええ、夏は暑かったです」
突っ込めよ、それともマジなのか?
「そういえば、こないだ近所の商店街で水瀬さんが目覚し時計を・・」
「話すり替えるなっ!」
ついでに、この辺りに商店街なんて無い。
「でも、このまま話続けるの、可哀想かなぁ・・って」
「誰がだよ?」
俺が・・とか言ったら殴るぞこんガキ。
「あなたに決まってるじゃないですか〜、嫌だなぁ、もう(はーと)」
だから、その「はーと」ってなんだよ・・
「心、心臓とかいう意味だったと思います。確か」
「・・・誰に言ってるんだ?」
「あなた以外に言ってたら私は危ない人ですよぉ・・」
「『フランシスカ』だな」
「うぐぅ・・」
今のはパクリだと思ったのは俺だけだろうか。
「それとも、やっぱり斎田さん的には『えぅ〜』の方が良かったですか?」
そういう問題ではないと思う。
「あ、もうそろそろ洗濯物取り込まなきゃ」
「んー、そかそか、じゃ、頑張ってくれや」
ふー、やっと執筆を続けられる・・
「『当然』、あなたも手伝ってくださいね〜(はーと)」
俺、何か悪い事しましたか?(泣
「今日はいつもよりも多いですからね〜」
そう言いながら部屋を出るメイドの顔はどこか楽しげであった。

続く

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