寿司とロックンロール



 

    田舎町に越してきたのは80年代のはじめだった。60年代、70年代に一世を風靡したロック・スターたちも、もう舞台の上で走りまわったり絶叫するのがシンドイ、という年齢になってきていた。そしてもちろん、ロック・コンサートを埋め尽くしたかっての若者たちも、それなりに「成長」していたのだが、わたしが住んでいる田舎町は、1969年の、かの有名な「ウッドストック・ロック・フェスティバル」の会場から車で40分くらいのところなので、69年のフェスティバルに参加するために全国津々浦々からやってきて、そのままこのあたりに住み着いてしまった、という人たちが(出演したミュージッシャンも含めて)けっこういるのである。

    そんなわけで、田舎にしてはクールな土地柄といえる。そんなところで半径50マイル以内で唯一の、寿司を食べさせるレストランを開いてしまったのだから、客層も推して知るべし。そこで、ここではわたしが寿司を食べさせるはめになった有名人を羅列してみようというわけ。こういうミーハーな行為を英語では「Name dropping」と言います(^^

  Rod Stewart

    実はこれは流れた話。しかもまだレストランは開く前で、フリーランスのパーティ屋をはじめたばかりのころ。だから、ここに含めるべきじゃないのだけど、なにしろ大物だから、流れた理由くらい書いておかないと!

    何回か一緒に仕事をしたことのあるウッドストックのパーティ屋さんから朝、電話がかかってきて、Rod Stewartが今夜、ハンプトンの別荘へ帰るから、そのとき寿司を10人前くらい持って行きたい、という。こういう仕事のためにどうしなければならないかというと、まず、寿司ネタをマンハッタンの魚屋に注文してドライ・アイス詰めの梱包をしてもらい、友人・知人の中でその日の夕方までには田舎町にやってくる予定の人を探し、「お寿司食べさせてあげるから、ネッ、ネッ」と懇願し、車の事故かなんかで時間がかかって間に合わなかったらどうしよう! と、丸一日心配してなくちゃならないのだ。しかも、ハンプトンの近くには寿司屋がいくらでもあるのだから、そこに電話して配達させればいいわけだ。なんとも理屈に合わない注文なのである。わたしはこれでも「論理の人」だから、いかに理屈に合わないかをウッドストックのパーティ屋にとくとくと説いて、Rod Stewart にも、その方がずっと新鮮でおいしい寿司が食べられることを伝えるように、と言ってしまったのである。結局 That痴 a good idea ! ということになったらしい。

 

John Sebastian

    彼はウッドストック・コンサートに出演して、そのまま住み着いたひとりなのだが、うちのレストランには妻と四歳くらいのジョンJr.を連れて、ひと月に一度くらい来ていた。はじめてきたときに、たまたまわたしは娘にホット・ドッグ寿司をつくって食べさせていた。それに興味を持ったジョン・Jr.に味見をさせたらすっかり気に入って、以来、セバスチャン一家が予約を入れるときは必ずホット・ドッグを買っておかなけりゃならない、ということになった。ジョン・Jr.はホット・ドッグ寿司に目覚めさせてくれたうち娘(当時7歳くらいだったろうか)を尊敬していて、いつも彼らのテーブルに招いて仲良く食べていた。

 

Roger Daltery & John Entwistle

    わたしの町から一時間近く離れているところで「The Who」がコンサートを開くことになった。コンサートの後、舞台裏で寿司バーつきのパーティをしたいという。ロジャーのマネージャーは電話で「ナットウを必ず持ってきてくれよ。ボク大好きなんだ。ロジャーにもぜひ食べさせたいから、たっぷり用意しておいてね」と言った。わたしは「あのーー、ナットウって、ちょっと変わった匂いのする、豆を腐らせたような、あの納豆のことでしょうね?まちがいありませんネ?あれをロジャーがお好みなんですか?」と念のため確かめた。「そうそう、それっ。いや、ロジャーは食べたことないんだ。でもぜったい好きになるから」と力強く断言した。わたしは、こりゃあ見物じゃわい、と思いながら、板前さんにこの特別注文の件を話した。彼は「ぜったいに気に入る味付けにする!」と、すっかりはりきってしまったが、わたしは「そんなにたくさんはいらないわよ・・・たぶん・・・ま、残ればわたしが食べるからいいけど」と言っておいた。

    パーティは盛況だったが、納豆寿司を口に入れたときのロジャーの顔をお見せしたかった。ギターを叩き壊すエネルギーは舞台の上だけで、とてもおとなしい感じの人なのだが、子供が母親にはじめての食べ物を強制されたときみたいな不安そうな顔をして、それでもお行儀良く、そばで「どうだ、うまいだろう、もひとつ食うか?」などとけしかけているマネージャーにも、だまって首を縦に振っていた。でも二つ目には手を出さなかった!

 

  Levon Helm

「The Band」の  Levon Helm はかなりの寿司キチだった。予約するときに「うずらの卵を30個、ウナギを20個」と特別注文するのだ。もっとも、これをすべて食べるわけじゃなくて、半分は持ち帰りにするのである。うずらの卵は軍艦巻きにしてイクラやトビコの上に落とすわけだから、持ち帰りにしても形が崩れないように苦労する。はじめて来た日、板前さんが30個のうずら卵と格闘している寿司バーへやってきて、刺し身包丁でうずらの卵をスパッっと真っ二つに割って見せたい、と言う。そりゃもう、どうぞどうぞ、ということになって、2、3個はつぶしてしまったが、ひとつは見事に割ってくれた。うずらの卵が気に入っているのは味じゃなくて、このワザの方なのじゃないか、という気がしなくもないのだが・・・。 彼に限らず、他にもウニを40個注文する常連客の夫婦がいたが、同じ物をこんなにたくさん食べたい心理というのはどうなっているのだろう。

この夫婦は「Uni makes us soooo sensual !」と言っていたのだが・・・。

 

つづく・・・・・

といっても、あとはあとはあんまり有名じゃない人たちばかり。ブルース・スプリングスティーンの舞台裏パーティの話がコンサートの主催者側から入ったことがあるけれど、ブルースはチーズ・バーガー好みの人らしいから、マネージャーが賛成しなかったらしくて流れた。

書いているうちにいろいろ思い出してしまった。ロックンロールとは関係ないけれども、ジャグリングのFlying Karamazov Brothers とか、マフィアの親分 Fat Tony とか・・・

うーん、やっぱり別のページを開いて、話をつづけましょうか・・・忘れてしまわないうちに・・・

 

    

 

 

L

Home

楽しい田舎暮らし

なんでも手づくり

私が翻訳した本

 ホンの話  

 ホントの話  

こんなに明るいわたしがうつ病持ちだった

アメリカの子育て

犬を飼うのが怖かった獣医の娘

ハドソンが教えてくれた

世間が白い目で見る生き方をした人たち

寿司とロックンロール

食の話

  物理の話

女の話

  対話:人間を考える

Family

リンク

掲示板

メール

 

 

 

動画