ハドソンが教えてくれた



 

ハドソンは写真をみてもわかるように、50kgを超える大型犬だ。わたしはジャーマン・シェパードの体型とゴールデン・リトリーバーの顔とコリーの頭脳を持った、稀にみる傑作雑種だと思っている。

小犬のときにニューヨーク州刑務所の近くをフラついていて、拾われたと聞いている。とても気立ての良い子なので、服役している人の遊び相手として訓練を受け、そこで何年か働いたそうだ。引退して親切な飼い主のもとへ行ったのだが、飼い主が死んでしまったらしい。その後、わたしの友人の母に飼われて幸福な数年間を過ごしたが、その人も老齢のため他界した。ハドソンは娘である友人のもとに引き取られて来たが、赤ちゃんを生んだばかりの友人の手には余る、ということで、うちにくることになった。

はじめてハドソンと対面したとき、犬好きなわたしのつれあいは「こんなすばらしい犬は見たことがない!」と感嘆した。犬を飼った経験の浅いわたしにはよくわからなかったが、つれあいがそういうのだからソウなのだろう、くらいの気持ちで連れて帰った。

ところが、ハドソンはわたしに対して、まるで生き別れになっていた家族と再会したかのような愛着を示しはじめた。死に別れた飼い主が女性だったからなのだろうか。金魚のフンみたいに、わたしの後を追い、片時もそばを離れないのである。夜中に何回も寝ているわたしのそばにやってきて、ちゃんとソコにいるかどうか確かめる、とでもいうそぶりすらする。わたしはめったなことで目が覚めないタチだからいいが、つれあいの方がイチイチ目覚めてしまうので、ドアを閉めておかねばならないほどだった。きっと、ある朝、目覚めたら飼い主がいなかった、という体験をしたためだろう、と思ってとてもかわいそうになった。

                        

ともあれ、こんなになつかれるとこっちも情が移って、わたしとハドソンは大の仲良しになっていった。その彼が、去年の秋、歩けなくなった。後ろ足の関節が老朽して痛みが激しくなったせいだった。よく考えてみたら、もうかれこれ一年近く歩くのがおっくうなそぶりをしていたのに、わたしは気づかなかったらしい。

ある日突然、腰砕けになってしまった彼を見て、わたしは動転した。老犬にはありがちな症状と知って、手だてをしていなかった自分を責めた。でも、幸か不幸か、わたし自身が半年ほど前に「五十肩(まだ50歳じゃなかったので四十肩と呼びたい!)」になり、いろいろリサーチしたあげく、グルコサミン・コンドロイチンとかいう栄養補強剤が効果バツグンと知って、服用した結果、治ってしまったという体験をしていた。そこでハドソンにも試してみよう、ということになった。健康と食べ物、栄養補強剤などについては日ごろから良く研究している方なので、ペット用の抗酸化剤や薬草から抽出した痛み止め剤などをあちこちから入手した。獣医さんとも相談したのだが、手術をするか(老犬だから予後はどうなるかわからない)、定期的に痛み止めを注射するか、グルコサミンを試してみるか、くらいしか治療法はないといわれた。グルコサミンは効果が出るまで2、3ヶ月もかかるというのが難点なのだ。

 

ところが、もはや用を足すため腰を上げることもできなくなった彼は、落胆のあまり絶食をはじめたのである。水すら飲まないという、困った状態になってしまった。飼い主だってめったには口にしないステーキ肉を買って来て鼻先にチラつかせたり、挽肉に錠剤をくるんで食べさせようとしたが、プイっとそっぽを向いてしまう。2週間ほどこんな調子で格闘しているうちに、体重は三分の二くらいに減ってきた。このままでは入院させて点滴で栄養補給をしなければならない。しかし、もともと心理的な要因で絶食してるらしい彼が、家族と引き離されてしまったら、どんなことになるだろうか。なんとしてもわたしの手で食べさせなくては、と思った。そこで濃厚なチキン・スープやらヨーグルトやらに、粉末にした錠剤を混ぜ込んで、プラスティックの注射器で(針はつけずに)流しこんだ。こんな調子で食べてくれる量は、たかがしれているのだが、薬の効果が現れるまでなんとか生き長らえてオクレ、と懇願しつづけた。もちろん、ハドソンが死にたくなるほど不快に思っている排泄物にまみれた長髪の巨体を一日に何回も洗ったり拭いたりして、「これこのように、お世話はいといませんから、どうぞ、わたしのためだと思って、いま少しがんばって下さい」と言い続けた。

 

わたしの気持ちが通じたのか、薬の効き目があったのか、断食モードに入ってからひと月近くたったころに、少しずつ食べてくれるようになった。

やがて、フラつきながらも腰を持ち上げて用を足せるようになった!直後にペタンと尻餅をついてしまうこともあったが、少しずつ良くなって行った。そのことが彼を元気づけたのだろう。食欲も増してきた。

薬の効果が現れるはずの三月目には、室内を自由に歩き回れるようになった。ここまでくれば外に出ることができるのだか、残念ながら、我が家の造りはどこも六、七段の階段を登らなければ外にでられない。冬の最中なので改築工事もできなくて、「もう少し待ってネ」といいながら、一日に一回、つれあいとふたりで抱えて外に出していた。

 

2月の末のある日、夕食を食べているとき、階下に通じるドアの向こうでノックでもしているような音がした。へんだなぁと思って開けてみると、ハドソンがニッコリと笑って座っていたのである!十五段の階段をひとりで上がってきたのである。わたしとつれあいは躍り上がって歓声を上げた。翌朝、意気揚々とハドソンを散歩に連れ出したら、悠々と往復で1マイル歩いてくれた。

 

と、まぁ、よくある愛犬物語にすぎないのだが、わたしがなによりも感激してしまったのは、数ヶ月間にわたってハドソンの介護をしているあいだ、これまで感じたことのない満ち足りた気分だったことなのだ。今でもその正体がよくわからないのだけども、なにか、彼とわたしのあいだでつながったものがあった、という感じなのだ。そしてそれが可能だったのは、ハドソンの側からの働きかけだったという気がする。

 

追記:

ハドソンが快復してから2年以上経ちますが、相変わらず元気です。栄養補強剤はのみつづけています。以前はよく下痢をしたのですが、この錠剤をのみはじめてからしなくなりました。たぶん、錠剤に含まれている酵素が効いているのでしょう。ハドソンの快復をもたらした栄養補強剤は下記のHPから注文しました。


Extra Strength Inflamaway
  (グルコサミン、ユッカ、ビタミンC、etc.)
Super Oxy Green
(抗酸化物質、酸素etc.

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