「愛している」と伝えておいてくれ

上京してきて専門学校の寮に入り、少し慣れた頃に起こったお話。

ちょっと長いし、目がチカチカするかも。。。(苦笑)

 

寮の部屋は2人で1部屋だった。

当時の彼氏は同じB棟の1階に住んでいた。

ある夜、彼氏は就職していた時の先輩と飲み会でお出かけ。暇だったので彼氏と同室だった阿藤さん(♂)に遊んでもらうことにした。

しかし、それが長い夜の始まりだった。

 

阿藤さんと話していると気が付けば午後12時。そろそろ部屋に戻ろうとした矢先。

「阿藤さぁ〜ん!」

女の子が1人訪ねて来た。

こんな時間だし、邪魔になるといけないと帰ろうとしたら

「ごめん、ちょっと助けて!」

知らない女の子に引き止められてしまった。

・・・阿藤さんが襲うのか?(ドキドキ)

 

「違うから藤澤(苦笑)」

「あっそ、残念(含笑)」

「いや、そういう話している時間ないのっ!(怒)」

「・・・はいっ、すいません(汗)」

 

いきなり怒った女の子、名前は井村さん(♀)、A棟の人だといった。

何故過去形か。

それは・・・

「早く、いいからきてっ!」

「おう、わかった」

「じゃ、部屋に戻る・・・」

「藤澤、お前も来いっ!!」

「へ?」

 

ということで夜中にA棟に拉致、そして井村さんの部屋に到着してからの自己紹介だったのである。

「で、何がどうして私はここに?」

「・・・ごめんねぇ、大変だったから悪気はないの」

「いや、構わんけどなにがあったの?」

「で、彼女は大丈夫なのか?」

 

大丈夫って何よ?!

 

そこへ泣きそうになりながらベッドから出てきたお嬢さん。

「ごめんね、私の為に・・・」

訳が解らないので話をしてもらうと。

 

井村さんの同室の宇崎さん(♀)は阿藤さんと同じクラス。

そして宇崎さんは最近同じクラスの江本くん(♂)に告白した。

「お互い束縛しないでおこう」ということで、えらくサバサバした付き合いが始まった・・・はずだったが。

 

「それ以来毎日電話がかかってきて『何してたの?』とかしつこいし」

それで彼女は江本くんに「そういうことするなら付き合うのやめる!」と言ったらしい。

「そんなつもりじゃなかったんだ」と謝った江本くん。

しかし事態はますますエスカレートしていった。

今でいうストーカーというやつだ。

 

宇崎さんは同室の井村さんに電話に出てもらい居留守を使ったり、同じ寮の阿藤さんに話して相談をしたりしたのだが、一向に収まる気配がなかった。

そしてどうやらその行動は最終段階にやってきていた。

それが今夜。

だが私はどうしてここに?!(爆)

 

「でね、ついさっきウチに来たの」

「え、だって12時まわってるよ?」

「うん、だけどホントに来たの・・・」

「それで宇崎さん怖がってたから、私が出たのね」

「そしたら?」

「『宇崎さんまだ帰ってないよ』って言ったらね」

 

 

 

 

 

 

「愛している」

そう伝えておいてくれ

 

 

 

・・・ごめん、事態がこんなじゃなかったら

爆笑間違いなしなんですけど私。

 

これで完全に怖がって泣きがはいってしまった宇崎さん。

ということで阿藤さんが引っ張り出されたわけである。そして私は巻き込まれたのだった。

 

ま、女性が泣いてるのをほっておけるほどヒドイ奴じゃないので全面的に協力することにした。

「ごめんね。本当にありがとう。すっげー怖いのっ・・・」

と泣いている彼女の頭をなでながら話を進める。

 

まず確認しなければならない事がある。

12時をまわった段階で帰ることができない奴は何処にいるか?

そしてこの寮内に知り合いがいるか?

 

これらを調べるべく阿藤さんは外に見回りにいった。

宇崎さんは泣き、井村さんは怒っている。

「あの男、見つけたら泣かすっ!!」

 

阿藤さんが帰ってきた。しかし何処にいるか、知り合いがいるかも分からなかった。

「この部屋はヤバイから俺の部屋に行くぞ」

彼女も「ここに居たくない」ということもあり、夜中に4人でこそこそ移動。

目立つっちゅうに(苦笑)

 

部屋に辿り着いて、この後の相談をする4人。

そして少し落ち着いた宇崎さんは熱を出してしまった。よっぽど怖いらしい。

彼女は「奴の名前を聞いてるだけでも辛い」と言うので私の部屋で薬を飲ませて寝かせておく事にした。

 

すでに夜は明け、時計は午前6時を指していた。

宇崎さんだけではなく、他の2人も苛立ちと怒りでかなりきていた。

どうなるんだろう、これ・・・収拾つくのかのかなぁ。。。

不安に思いながら阿藤さんの部屋に戻る。

何故かこんな朝早くに、同じB棟の大木さん(♂)が来ていた。

そして彼は驚くべき事を言った。

 

「実はさぁ、昨日から知り合いになった江本って言う奴がいるんだけど。そいつの女がこの寮で、会いに行ったら帰ってなくて電車の時間が無くなって困ってたんだ。だから○○の部屋でいっしょに朝まで飲んでたんだけど、ちょっとこっちに戻ってきたら、ここ電気点いてたから遊びに来たんだよ」

 

飛んで火にいる夏の虫。

 

可哀想な江本くん。

私はこれを聞いている横の男女がとっても怖いです。。

 

「連れて来い!!」

「え、えっ??」

「いいから!!」

「あ、うん」

 

 

その間3人で話合い。

私は今回の件で直接関係が無い。

これだけ巻き込まれてこういう事をいうのもオカシイが。

しかし江本くんと話をしたい。

そういうと「奴に説教した後からだったらいい」という条件で会わせてもらう事にした。

 

阿藤・井村ペアは怒りのあまり顔が無表情である。

「あまり追い詰めないように」と一言言い残して、自分の部屋に戻った。

 

部屋に戻ると宇崎さんが起きてきた。

「あれからなんかあった?」

「いや、それがね・・・」

全部伝えると彼女は震えながら「絶対会いたくない!」と言って泣き出してしまった。

それはそうだろう。熱を出すほど怖いし、嫌な思いをしてるし。

私はベッドに彼女を寝かせるとこう言った。

「宇崎さんが会いたくないなら、私が2人の説教の後に会うから言いたい事あるなら伝えるよ。」

「謝られようが何しようが、会いたくないって言って欲しい」

「分かった・・・」

 

その頃阿藤さんの部屋では・・・

 

「お前、ふざけんじゃねーぞっ!」

「アンタのせいで宇崎さん、熱まで出して!どう責任とるのよ!!」

 

関係ないはずの大木さんまで一緒に怒られている。

当事者の江本くんは何も言わず下を向いて黙っていた。

結局何も言わない江本くんに好き放題言った2人。

すっきりしたのか、とりあえず埒があかないので私を呼んで交代となった。

井村さんは宇崎さんの所へ行き、阿藤さんは私の横で睨みを利かせていた。

 

「あのね、私貴方がどういう人かまったく知らないんだけど、今回なんだか分からんけど巻き込まれちゃったのね」

「・・・」

「テメェ、聞いてるのかよぉ!」

怒鳴って椅子を蹴る阿藤さん。

椅子が飛んで窓に当たる。

 

〜〜〜〜〜〜っう・・・

 

「阿藤さん、ちょいとアンタ外出てて。」

「なんで?!」

「私が彼と話をしたいの、アンタが怒ると話が進まん!!

少しでイイから2人で話させてくれる?

阿藤さんさっき話して終ったんでしょ?」

 

渋々阿藤さんは部屋から出て行った。

「10分な!」

 

これで落ち着いて話が出来る。

 

江本くんの様子を見ることにした。

赤い丸サングラスをかけている面長の優男。

顔がこわばって泣きそうになっている。

 

「ん〜っとね、今回私はまったく君らの事を知らないで巻き込まれたのね、だから君の話を聞きたいの」

江本君は驚いた。しかし、

「あ、あの・・・彼女は?」

「今私の部屋で寝てる。貴方が今までとった行動でとうとう熱までだしちゃったよ」

「えっ、大丈夫なんですか?」

「うん、それより彼女は昨日泣いてたよ『江本くん怖い』って」

「・・・」

「彼女から伝言ね、『謝られようが何しようが、会いたくない』って」

「・・・」

ここから話は早かった。

素直な坊ちゃんで、「阿藤さんが怖かったから何も言えなかった」と言うと泣いてしまった。

仕方なく「そうだよね、あれじゃ話できないよね」と慰めながら話を聞き出した。

 

告白されて付き合いだしたが、自分が嫉妬深かったなんて思ってなかった江本くんは自分が止められなくなってしまった。

彼女が好きで好きでたまらない。

「束縛した付き合いはしない」と言ったが、注意されてもほとんど自覚がなかったのもあり今回のような行動をとってしまった、ということだった。

そして

「彼女にどうしても謝りたい」

「でも、彼女は今貴方に怯えているの、怖がっているの分かる?それは貴方がやった行動でそうなったんだよ、それ以上嫌われてもいいの?」

と言うと泣きながら「本当にごめんなさい」と言いつづけた。

それが落ち着いてきた所へ阿藤さんと井村さんが戻ってきた。

 

空気が一転して落ち着いた雰囲気になっている為驚いた2人。

「もう、話終ったから」

「え、どうなったの?」

「あのな、あんだけ怒ってたら話できるモンもできんわっ!(苦笑)

とりあえず、彼も悪かったって言ってるし、後は彼から聞いてくれ」

 

そう言って自分の部屋に戻った私は宇崎さんに彼の顛末を話した。

 

「すごく反省してたよ、阿藤さんたちにもめっちゃ怒られてたし」

「うん、井村さんからも聞いた。全然知り合いでもないのに巻き込んでごめんね」

「気にしなくてもいいよ、こういうこともあるさ」

 

それから数日後。

「クラスメイトとしての会話はするけど、個人的にはしばらく顔も見たくないし話したくも無い」

宇崎さんはそう自ら伝えて、この話はケリがついた。

それ以来、宇崎さん・江本くんは私になついてしまった。

それは後で功を奏する、それはなぜか。

この事件をきっかけに、私は1年間飽きる事の無い愉快な色恋沙汰で振り回される事となるのだ。

それはまたの機会に。

 

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