吸血鬼という事(1話)

夏だからか、
月の光が熱い。
眼鏡が熱気で曇る。
外すと見えないので、仕方なく我慢する。
帰宅途中。
そう、仕事を終え、友人の居ない俺は一人で歩いていた。
それもこれも、俺の下らない能力の所為・・

―――公園
気がつくと、誰も居なかった。
周りを見てみると、完全な闇―――

キィンッ

妙な音が聞こえた。

「くっ・・」

妙な声が聞こえた。
足を向けてみる。
『喧嘩なら止めないと』とかいう下らない事では無い。
興味本位からだ。

目の前では、『闘い』が行われていた。
黒い服を着て、剣の様なものを投げつけて刺そうとする女と、
それを素手ではじく、白い服の女・・・
互いに対象的で、どちらも人とは外れた動きをしていた。
「!?貴方は・・」
その様をぼぅっと見ていると、黒服の女の方に気付かれた。
その顔は険しい、が、近くで見て解った。
―――若い。
「何?どうやってこんなところに来れた訳?」
白い女のほうも、やはり若い。そして、美しい。
先程まで死闘を繰り広げていた相手の前だというのに、
まるで気を抜いて「何事?」といった顔でこちらを見ていた。
「私の結界が破られるなんて・・そんな馬鹿な・・」
自信喪失。
そんな言葉が似合いそうな感じで呆然としている。
「はっ、教会もお役所仕事よね〜、
こんな簡単に関係の無い人を通すようじゃ、
何のために結界を張ったのか解らないわ。」
白い女も白い目で見ている。
反論の余地など無いだろう。
「・・・と、それはいいとして・・・」

「貴方、なんでそんなに冷静なの?」
俺に問うているらしい。
目は・・・鋭い。
獣のソレに酷似していた。
だが、俺のほうの興味は失せた。
喧嘩だ。
さっきの二人の会話で解った。
どんな内容のたたかいだろうが、
二人は知り合っている。
そして、相応に仲もいいのだろう。

馬鹿馬鹿しいので、帰る・・・

踵を返すと、白い女は目の前に居た。
「・・・・速いな。」
「この場を見た人を簡単に帰す訳には行かないわ。貴方、何者?」
・・・どうやら、今夜は早く帰る事が出来なさそうだ。

「俺の名前か、遠野朝日・・・ただのサラリーマンだ。」
「遠野・・・?」
首をかしげている。
「もしかして、志貴の親戚か何か?」
「志貴?誰だそいつは、そんな奴は知らん。
お前が思ってる遠野ってのは、財閥の方の遠野なんだろうが、
遠野なんて苗字は案外何処にでもあるもんだ。」
何度同じ様な反応を見たか。
まぁ、今回は多少色がついていたので良いとしておこう。
「それで、どうやって此処へ?」
今度は、黒服の女が問い詰めてくる。
「歩いてきた。」
「違います!どうやってこの、
結界の張り巡らされている公園へと侵入できたんですか!」
結界・・?
そういえば、さっきもこの二人はそんな様なことを言っていた。
全く、今のご時世にオカルトな・・・
「知るか、俺はなんとなく歩いてただけだ。
結界だか何だか知らんが、そんな物の妨害を受けた覚えは無いぞ。」
聞いて、黒服の女は周りを見回していた。
「なんだよ、人が答えてやったってのに・・・」
失礼な連中だ。
「・・・ちゃんと張られています。
どこにも、穴なんてありません。
魔術師や吸血鬼でもない貴方が入れるはずが・・」
・・・またオカルトだ。
「・・・とりあえず、人に名前尋ねておいて、
自分達は名乗らないというのは卑怯だと思うぞ。」
「なんで私とアルクェイドが『達』と、
一緒にされているんですかっ!」
「そうよ、こんなシエルなんかと一緒にしないでくれるっ!!」
「・・・なるほど、シエルとアルクェイドか。
外人の割には随分と日本語が達者な・・」
外見は外人なのだが、
二人とも日本人ですと言われても不思議じゃない位に達者だった。
「あのー・・・」
シエルが不思議そうに聞いてくる。
「ん?何か?」
「さっき、アルクェイドも聞いたと思うんですが、
なんでそんなに冷静なんですか?」
本当に妙な物を見るような感じだ。
気に入らない。
「鈍感なだけだろう。別に変だと思ってないわけじゃない。」
「へぇ・・あの光景を見ても平然としていられる人なんて、
はじめてだけど?」
アルクェイドが詰め寄る。
そして、襟首を脱がせた。
「・・・・何をしている。」
気に入らない。
誰に断ってそんなことをするのか・・・
「んー・・・血を吸われてる訳でも無いわね・・
まぁ、死者だったらこんな達者に言葉なんて喋れないか。」
「さっきから何なんだ、いい加減俺を家に帰せ。」
空腹で、苛立つ。
「それもそうね。ただし、全部忘れさせてから・・・ね。」
何を・・・言っている?
「私の目を見なさい。そして、力を抜くの。」
「断る。」
「むっ、見なさいったら!」
記憶を消す、目を見ろ。
そんな事事前に言われれば、どうやって消すのか位想像がつく。
大方、催眠術か何かにかけるのだろう。
俺はそんな馬鹿げたものにかかってやれる程暇じゃないのだ。
「見るのよ。」
顔を抑えられていた。
首を動かせない・・・
「何・・・を・・・・」
「忘れなさい。何もかも・・」
目が見えた。
赤よりも、遥かに紅い目・・・
「・・・・・・」

「さてと・・・これで良し・・・と。」
「無理矢理人様の記憶を奪っておいて、何が良いんですか。」
声が聞こえた。
「・・・よく言うわ。何よ、
貴方がちゃんと結界を張らないからこんな事になったんでしょ!」
痴話喧嘩・・
全く、五月蝿い連中だ。
だが、いい加減眠い・・・
咎めるのも、馬鹿馬鹿しい。

そうして俺は、眠りに落ちた―――
(続く)
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