旅人の手記
○月×日
何も無い。
相変わらず、退屈かつ楽しみの少ない日々だ。
唯一の楽しみといったら飯くらいか。
前の町でたっぷりと稼いだから、さほど飯には困らない。
だが、今日も、羽を持った少女は見つけられなかった。
□月△日
今日も何も・・
「ん・・・?」
人気の無い景色の良い海辺で、
暇つぶし程度で始めた、
だが日課となっていた日記をつけていたところ、
近くで何やら騒がしくなっている事に気が付いた。
「たっ、たすけてぇ・・」
・・・子供がおぼれていた。
海では良くある事だ。
誰かが助けに入るかもしれない。
かといって、無視できるほど冷酷でもない。
どうしようか・・・
「今、助けるからなっ!」
彼−国崎往人−が迷っている間に、男が1人、海へと飛び込んだ。
中々いい泳ぎだ。すいすいと子供に近づいて、抱きとめる。
・・・までは良かったのだが。
見事に、子供のあがきに巻き込まれ、男は先ほどの泳ぎは何処へか、子供と一緒におぼれていた。
「しゃーねーなー・・・」
すくっ、と立ち上がり、服を脱ごうとした。
泳ぐのに、服は邪魔だから。
しかし、左腕を出したあたりで、突然、ソレは起こった。
風が強く吹き、その直後に、白い羽が見えた。
鳥にしては、やけに大きかった。
「・・・・っ!?」
少女だった。
羽を・・・
透けた羽を、背中に生やした少女が・・・
子供を抱きかかえて、さっきの男を宙に浮かばせていた。
どういう力かは知らないが、
そんな事よりも、少女の背中に生えた羽が目から離れなかった・・・
場所から、最後まで往人が見ている事に気付かなかった様子だが、
その姿はとても神秘的だった。
往人は、そのまま少女達が去るのをこっそりと見届けて、
日記の内容を書き直した。
□月△日
とうとう、見つけた。
母さん、やっと・・
やっと探していた人が、見つかった・・
これで、俺は・・・
ざぱ〜ん!
突然降りかかった大きい波に、往人は巻き込まれてしまった。
日記も、流され、何処かへと・・・
(続)
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