奇癖


2章・過


ハァ・・・ハァ・・・ ざっ・・・ 夜道を歩く。 欲しいモノが手に入れられなかった・・ 体が・・熱い・・・ まるで麻薬の常習者だ。 最初はタバコのようにただ気色悪いばかりなのに、 一度慣れ出すと、止まらなくなり、我慢ができなくなる・・ ・・・できなかった。 我慢が。 そして、彼女の血を飲む事が・・ ヒトとしての理性なんて当の昔に失われているはずの夜。 なのに、本能に逆らうように、私は彼女の前から飛びのいた。 殺したり、 血を奪ったり。 そんな事を今更、罪悪感のように感じてしまった。 今までだって何度も、 誰かの血を、吸い続けてきたというのに・・・ 「ぐ・・・がぁ・・・」 ・・・・苦しい。 堪え切れない。 苦しすぎて、 何もかもがどうでも良くなって・・・ そのまま・・・ ただそのまま、 欲望の赴くままに奪った・・・ 誰のモノだろう。 解らない。 ただ固まりかけてどろどろとした赤い血が・・・ 動脈を流れるソレと何一つ違わぬモノが、手にこびりついて・・ ああ、また私は人を手にかけてしまったんだと、 狂ったように血に染まった右腕を舐め取る、 そんな滑稽なイキモノを、 ずっとどこかで、見つめていた――― ・・・・朝。 目を覚ましたくなんて無かった。 目覚めれば、また私は解ってしまう・・ 夢だと、 自分の意思などとは関係の無い夢なんだと思いたがっているのに、 私の腕には赤いモノがこびりついている。 私の口周り、 シャツの襟、 髪にまで・・ まるで、返り血を浴びたような、 そんな赤を見て、私は思う。 もう、嫌だ・・・と。 立ち上がると、くらっ・・・と、 一瞬、目の前が暗くなった。 ・・・・屋敷の前をふらふらと情けない足取りで歩く。 きっと、彼女はいないだろう。 見回りの途中に男に不意打ちを受け、 気絶させられて・・ 人は欲望を満たすためなら本気を出せるのだ。 正確には、理性が存在しなくなったら・・だが。 その本気は、人としてのキャパシティなどは無視される。 容赦も、必要無い。 その容赦は誰に対してか、 獲物? 違う。 自分に対する容赦だ。 人は、ヒトとしてある限りは、力をセーブしている。 だが、私で言う「本気」というのは、 セーブしている範囲内ではなく、 「私」という存在そのものの限界を無視した力だ。 それだけにその威力は人間離れしており、 「気絶させた」とは言っても、 同時に彼女のアバラ骨の数本は砕いてしまったかもしれなかった。 それだけの重症を負っていて、 彼女が居るはずが無いのだ。 「あ、おはようございます。」 居るはずが・・・ 「今日もいい天気ですねー」 なんで・・ 「リートさん・・・顔色、悪いですよ。大丈夫ですか?」 自分の方が苦しいはずなのに、 立っているだけでも苦痛なはずなのに、 彼女は箒片手に、門前に立っていた。 ただにこにこと、微笑みながら・・・ (続く)

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