主人の居る館(第4章)

ある夏の夜。 『彼』は一人の少女と出会った。 その少女は、いつも機嫌よく笑っていて、 居るだけで心を暖めてくれていた。 優しく、純朴な彼女に、 彼は段々と惹かれていった・・ ――――――――――――――――――――――――――― 「へぇ・・なんだか、話のつくりが変わってきちゃいましたね〜」 相変わらず何時の間にか背後に居るメイド。 「文章は、書き手の気分によって二転三転するものだ。 気にしてたらきりが無いぞ。」 余計な事を言っている暇は無い。 思いついた時に書かなくてはならなかった。 「でも、良くそんなに文章書けますよね〜、上手いかどうかは別として。」 ―――後の方は余計だぞゴルァ 「とりあえず、お茶、どうぞー」 ・・・今日の姫里は、珍しく気が効いている。 「ん〜・・ありがとな。」 「わっ、珍しい・・」 大げさに飛びのいて、驚いてた。 何が珍しいのだろう。 「斎田さんが人にお礼を言うなんて・・ 奇跡です謎ジャム大盛況ですむしろ明日は大洪水ですっ(汗)」 ・・・らしい。 ―――こいつわ・・・ 「人の事を礼儀知らずと一緒にするなっ!」 「えーーー!?事実じゃないですか〜?」 ―――うぅ・・・(泣) ・・・・結局のところ、手を止めてしまった。 どうも、こいつと話して居ると調子が狂う。 なんで雇ったんだろう・・ いや、家事が出来て今時こんな辺境に来てくれて尚且つそれなりに可愛げふんげふん・・(汗) とにかく、そういう訳だから雇った気がしないでも無いが。 そういえば昔、別の人間が居た気がする。 ・・・昔が、懐かしい。 一人だけだった頃。 今よりずっと館は寂れていて、 幽霊屋敷の様に気味が悪くて、 人が全然寄り付かなかった頃。 ずっと、このまま一人で終わるとばかり思い、 なんでこんな寂れた所に俺は居るんだろうとか、 そんな迷宮的な考えばかりしていた毎日。 何か戒めがあった訳でもないのに、 町に近づこうともしないでいて・・・ ただ、祭やなんかがある時は、 遠くからじ・・っと、羨ましそうに町を見ていた。 「斎田さん・・ちょっと、大丈夫ですかっ!?」 は・・・と気がつくと、揺さぶられていた。 「ん・・・」 少し、眩暈がする。 らしくもなく、深く、物思いに耽っていたらしい。 「はぁ・・もう、心配させないで下さい。 てっきり逝っちゃったと思っちゃったじゃないですかぁ!」 ・・・最後の方は余計だが、心配してくれていたというのはわかった。 「悪ぃな・・疲れてるみたいだ、ちと休む・・」 それだけ言って、ベッドに寝転んだ。 ある日、屋敷に一人の少女が来た。 名は・・よく覚えていない。 全身ボロボロで、死にそうな位に辛い顔をしていた。 俺の顏を見るとばた・・と倒れこみ、そのまま気絶してしまった。 放っては置けないので、 彼女を屋敷に入れ、治療をしてやった。 治療と言っても些細な物。 医療の知識がある訳でもなく、 ただ素人そのままの荒っぽい治療だ。 それでも、運が良いのか、彼女は回復した。 ベッドから起き上がれるようになって、 何かを安心したのか、わっ・・と泣き出して、 それから少し経って、 「ありがとう」 と言われた。 別に、どうという事も無い、感謝の言葉。 ただ、今まで誰かにも一度も言われた事が無かった。 ・・・孤独だったから。 それから毎日、彼女と色々話をした。 外の事、 此処とは別の、何処かの事。 先の事、 いつか、何かをしてどうにかなるという話。 話をしていて、気がついたら日が暮れていた、なんて事も多かった。 人と話す事がこんなにも楽しいなんて、知らなかった。 何なのだろう。 あの時に、感情というモノが出来たのかも知れない。 それ位に、色々と思い、考え、想った。 「はっ・・・」 目が、覚めた。 懐かしい、夢。 俺の生涯で初めての「人らしい」日常が、そこにはあった。 今はもう当然の、人ならば何の事も無い日常。 だからそれだけ、あの頃はわからなかった。 日常が『楽しい』なんて、知らなかったから・・・ だから、先が見えなくなる位に、楽しかった。 「・・・・・・・・」 嫌な気分だ。 今はもう、その『先』を知っしまっている。 だから、思い出したくは無かった。 出来る限り深く、 そして二度と思い出さない程に、 忘れたいと思う様な、そんな事。 ・・・・ただ、懐かしかった。 〜続く

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